マイ・ラブ/夢見る16歳

車のなかでラッツ&スターの曲を延々と流し続けていたとき、曲が“マイ・ラブ”に変わってしばらくすると、後部座席に乗っていた中学生の娘が突然、

「この歌いいね」

と、言い出した。

「こういう歌が好きなの?」

ときいてみたら、

「私、恋愛ソング好きなんだけど、最近の歌って表現が遠回しな歌詞が多いからさ」

うんうん。

「リンリンリリンって歌あるでしょ」

はいはい、フィンガー5の“恋のダイヤル6500”ね。

「あの歌の女の子のソロパートの歌詞とか、可愛くて好きなんだ」

「あなたが好~き、死ぬほど好~きってやつね」

「そう。だから、こういう感じの歌も好き」

「昔の恋愛ソングは歌詞がストレートだからね」

「それな」

私と似てるのは顔だけで趣味嗜好はひとつも一致しないと思っていた娘と、まさかこんなところで話が合うとは思わなかった。


佐藤さんソロのラブ・ソングというと、佐藤善雄×桑野信義ボーカルの“夢見る16歳”の方が人気も知名度もあるイメージだけど、実は私は昔から、佐藤善雄×鈴木雅之ボーカルの“マイ・ラブ”の方が好きだった。

だから、娘が「いい歌」って言ってくれたのが、ちょっとうれしい。


どちらもゆったりとした、すごく可愛くてロマンティックな雰囲気の曲。

“夢見る16歳”は、桑野さんが16歳の少女の気持ちを、佐藤さんがちょっと大人な男性の気持ちを、掛け合うように歌っている。
桑野さんの透明感ある声を引き立たせるためか、この曲で聴く佐藤さんの声はほかの曲より一層低い。

一方で“マイ・ラブ”は、“木綿のハンカチーフ”の男女逆バージョン。都会へ旅立っていった恋人を遠くから見守り、やがて離れていく彼女の気持ちに心を傷める曲。
“木綿のハンカチーフ”とか“夢見る16歳”みたいな男女の掛け合いではなく、鈴木さんが彼氏の本音を、佐藤さんが彼氏の建前を歌っている。

優しく語りかけるような佐藤さんの低音と、絞り出すような鈴木さんのハスキーボイス。どこか寂しげなフルートの音色……。


そういえば、YouTubeにアップされた新宿ルイードのライブ音源のなかに“マイ・ラブ”の入ってる音源がひとつあるんだけど、その“マイ・ラブ”の本音パートを歌ってたの、鈴木さんじゃなかったな。多分、桑野さん。
桑野さんのシャウトもかなりよくて、このバージョンもありだなと思った。


で、実はステージで“マイ・ラブ”を歌ってる動画もひとつあるんだよね。

あるんだけど、佐藤さんがあの甘い低音で愛を囁きながら客席に近づいて、ステージの上に足を投げ出して座り、客席の女の子たちに向かって語りかけるように歌うわけ。あのルックスで。

あれは、さすがにズルいでしょ。
あんなことされたら、目の前の女の子たちメロメロだよ。
多分、みんな惚れちゃうね。私以外。

(追記)あとで確認したら、この動画でも桑野さんが鈴木さんパートを歌ってた。この曲のソロは鈴木さんか桑野さん、どっちが正解なの?

スレンダー・ガールに私はなりたい

シャネルズやラッツ&スターの曲は、私にさまざまな影響を与えた。
とくに恋愛面で。

ラッツの曲は“め組のひと”や“憧れのスレンダー・ガール”をはじめ、女性を女神のように崇め称える歌詞のものが多い。

“彼氏になりたい”なんて、このストレートなタイトルだけでもキュンときちゃうし、「首ったけ」なんてセリフは今どき絶対使わないけど、やっぱりグッとくる。

個人的には“浮気なエンジェル”がいちばん好き。
子どものとき以外「可愛い」なんていわれたこと、私は一度もないし(多分)、久保木さんに「どうして可愛いの?そんなに」って言ってもらえるとか、うらやましくて吐きそうだよ。

そんな久保木さんの“恋の4回戦ボーイ”と“恋は命がけ”もいいよね。
久保木さんのことを好きになる前から、久保木さんのソロ曲は好きだったな。
久保木さんには、身を投げ打つような恋の歌がよく似合う。
きっと、そういう恋をしてきた人なんだろうな。うらやましすぎて、もう吐き気どころじゃないわ。


いろいろ思うことはあるけれど、小学生の頃からそんな「憧れの女性に求愛し続ける」曲ばかりを聴いていたおかげで、私の恋愛観はかなり偏っている。

好きなタイプをきかれて、

「好きになってくれた人がタイプ」

って答える人、いるでしょ?

あれと似て非なるもので、私は「私にめちゃくちゃ惚れてくれる人」に対し、グラッときてしまう。
“恋の4回戦ボーイ”みたいに直球で来られたら、もうダメ。


思えば、私は“憧れのスレンダー・ガール”のような女性を理想像として、この年まで生きてきた気がする。

スレンダー・ガールというにはさすがに年くいすぎちゃったけど、それでも自分で思い描くスレンダー・ガールに、少しくらいは近づけただろうか。


でも、ラッツ&スターのマドンナは、やっぱり薔薇の花みたいな棘のある女性なんだろうな。

私では、ちょっと役不足だな。一生かかっても“め組のひと”にはなれそうにない。