“め組のひと”を弾きながら

母が他界した。

私にシャネルズを、ラッツ&スターを教えてくれた、母。

今年、娘のピアノの発表会で“め組のひと”を連弾する予定でいる私は、ときどきリビングでひとりピアノの練習をしていた。

母は、私や娘がピアノを弾いている姿を見るのが好きだった。音楽自体も好きだった。

娘がピアノの練習をしていると、その背後に立って、

「聴いたことある曲やな」
「その曲、〇〇か?」

と、声をかけることもあった母だが、私が“め組のひと”を練習していていても、母はちょっと離れたところに立ってこちらを眺めているだけで、声をかけてくることはなかった。

どちらかというとシャネルズ時代の曲ばかり聴いていた母だし、

(さすがに低音パートだけでは、何の曲かわからないんだな)

そう思っていたある日、夕食のテーブルで不意に母が言った。

「め組のひと、弾けるようになったか?」

「え……? うん、まあ」

思わずうろたえる。

そうか。
確認するまでもなく、母はわかっていたのだ。
ああ、今年は“め組のひと”を二人で弾くんだな、と。

しかし、母は、私と娘が“め組のひと”を合わせているのを一度も聴くことがないまま、逝ってしまった。

ある程度の覚悟はできていたので、さほど悲しくはない。
ただ、私と娘の“め組のひと”を聴かせてやれなかったことだけが、心残りだ。


そして、母が他界して以来、私はときどき密かな恐怖を感じる。
ラッツ&スターのメンバーも、あと10年もすれば亡くなった私の母と同じ年である。

10年は長いようで、短い。
年を取れば取るほど、短くなる。

実際、桑野さんは今も闘病しているし、他のメンバーにもいつ何が起こるかわからない。

このままメンバーの誰かひとりでも欠けてしまったら。
ラッツ&スターの再集結を見られないまま、久保木さんの姿を見ることもないまま、二度とメンバー全員で集まることができなくなってしまったら。

いや、そもそも私がラッツ&スターのメンバーより長生きするという保証もないんだけど。


そんなことを考えながら、私は今日も“め組のひと”を弾く。

“ランナウェイ”の奇跡

諸事情により公私ともに多忙を極め、なかなか記事を更新できずにいましたが、この間(かん)、高校生の息子のプレイリストにいつの間にか“ランナウェイ”が追加されていたことを、ここで報告いたします。

新旧含め、何十曲というお気に入りの入った息子のプレイリストですが、その中でもランナウェイは『A+』に属するとのこと。
ちなみに、A~Cのそれぞれ+(プラス)と-(マイナス)を含む9段階。
その中で、ランナウェイは数少ない最高ランクの曲なのだという。

息子のスマホから“ランナウェイ”が流れているのを聴き、

「“ランナウェイ”好きなん?」

ときいてみたところ、

「好きやで。“ランナウェイ”聴くと結構テンション上がる」

と、息子。令和の高校生のテンションをもぶち上げてしまうとは、“ランナウェイ”もシャネルズもすごすぎる。

現在、息子のプレイリストには、

“ランナウェイ”
“浮気なエンジェル”
“憧れのスレンダーガール”
“め組のひと”
“月下美人(ムーンライト・ハニー)”

と、ラッツ&スター(シャネルズ)の曲が5曲入っている。
とくに好きなミュージシャンがいるわけでもなさそうなので、ひとりのミュージシャンで5曲って、息子にしてはかなり多い方。
彼のプレイリストを聴いている限りでは、新旧合わせてもTUBEとトップを争う最多曲数なんじゃないか。

「でも、シャネルズは数だけじゃなくてA+の曲もあるもんね!」

と言いたいところだが、TUBEの“シーズン・イン・ザ・サン”もA+なのが悩ましい(しかも、TUBEを教えたのも私だったりする)。


それはさておき、シャネルズとラッツ&スターの曲のなかでも“ランナウェイ”は息子の琴線に強く触れたようなので、私も改めて“ランナウェイ”を聴いてみた。

そしたら、やっぱりいい曲なんだよね。
今まで何十年間、当たり前のように聴いてたから気付かなかったけど。
いまさらながら鳥肌立ってきちゃった。

これは、きっと衝撃的だったよね。デビューしたとき。

そのときの様子は私には知りようもないけど、私はこの曲を多分、死ぬまで聴く。


ちなみに、息子は懐メロであろうとなんであろうと、好きな曲は人前であっても堂々と聴く。
プレイリストの曲を流しっぱなしで、自転車に乗って学校から帰ってくる。
だから、タイミングによっては“ランナウェイ”とか“浮気なエンジェル”と一緒に家に帰ってきたりもする。

そんなときは、もうホントになんとも言えない気分になる。

まさか、親子三代にわたってラッツ&スターやシャネルズを聴くことになるなんて、思ってもみなかったよ。
我が子にちゃんと彼らの素晴らしさを伝えられたこと、母として誇らしく思うよ。

そして、ある日のこと。
その日も部活を終えた息子が自転車に乗って学校から帰っている途中、信号待ちで“ランナウェイ”を流しながら、自分も一緒になって気分よく“ランナウェイ”を歌っていたところ、隣で信号待ちしていた徒歩のおじさんも突然“ランナウェイ”を一緒に歌い出したらしい。
目を合わせるでも、言葉を交わすでもなく、信号が青になると同時にお互い知らん顔で立ち去ったらしいけど。

“ランナウェイ”の威力、すごすぎない?

プレイリストに“浮気なエンジェル”

車での移動の最中、私はだいたい自分のスマホに入っているプレイリストをループ再生している。

ラッツ&スターの曲だけが入ったプレイリストAと、好きな曲を片っ端から保存したプレイリストBがあって、その日の気分でどちらかを再生する。


これは、つい数日前のこと。
高校生の息子を送迎中、後部座席に座っていた彼が私のプレイリストから流れてくる曲を聴きながら、ふと言った。

「その曲いいな。なんていう曲?」

思わず、

「え? これ? 今かかってる、この曲?」

と、聞き返す。

「うん」

「……浮気なエンジェル」

音楽アプリで検索する息子。

「誰の曲?」

「シャネルズ……ラッツ&スター。め組のひと歌ってたグループ」

「あ、あった」

シャネルズの“浮気なエンジェル”を、自分のプレイリストに追加する息子。

私に似たのか、息子は古い歌が結構好きで、1970年代から現代に至るまでの人気曲を幅広く網羅している。

ときどき「なんかいい曲ない?」と、母である私に情報提供を求めてくることもある。
私のすすめた曲が彼のプレイリストに入るのは、せいぜい3分の1くらいだろうか。私が「これは絶対好きだろう」と思った曲でも、「ちょっと違う」と言われたりするのだから、音楽の趣味というのはわからない。

シャネルズの曲は息子の好みじゃないと思っていたので、あえてこれまですすめなかった。
というか、基本的にその世代の人なら誰でも知ってるようなメジャーな曲しかすすめたことがない。

それがまさか、こちらからすすめてもいない“浮気なエンジェル”が息子のプレイリストに入ることになろうとは。
あげくに「昔の歌は歌詞がいいな」などと、自分の妹と同じことを言う。

私はこういう(いい意味で)軽薄な曲が大好きだけど、息子はどちらかというと渋好みだ。
今までも散々プレイリストで流しているし、その日初めて“浮気なエンジェル”を聴いたわけでもないだろう。
そもそも、“浮気なエンジェル”はプレイリストAとBの両方に入ってるのだから、これまで一度も息子の耳に入っていないわけがない。

なのに、なぜに今、突然?

タイミングなのか。
嗜好の変化か。
恋をしているから?

とりあえず、この“浮気なエンジェル”という私の一押し曲が、この日に突如として、なんらかの理由で息子の琴線に触れたのは間違いないようだ。

ものは試しと、

「浮気なエンジェルが気に入ったなら、これはどう?」

と、シャネルズの歌をもう一曲、流してみる。
ちょうど目的地に着いてしまったので、息子は車を下りる準備をしながら、

「なんていう曲?」

「憧れのスレンダーガール」

「ふうん」

そっけなく返事をしてバタバタ出て行ったけれど、こうして今、高校生の息子のプレイリストには、

“め組のひと”
“浮気なエンジェル”
“憧れのスレンダーガール”

と、ラッツ&スターの曲がなんと3曲も入っている。

“め組のひと”は、わかる。
“憧れのスレンダーガール”も、ぎりぎりわかる。
だけど“浮気なエンジェル”だけは、正直いまだに「?」という感じ。

いや、私はめっちゃ好きだけどね。息子が“浮気なエンジェル”を気に入ったっていうのは、いくらなんでも想定外すぎる。
今度は“渚のスーベニール”でも聴かせてみるか。いや、まずは4部作からいくべきかな。


それにしても、まさかラッツ&スターを親子三代にわたって聴くことになるとは思わなかったなぁ。

感慨深い。

ラッツ&スター久保木さんのダンス考察

【久保木博之さんへのラブレター】の中でも書いたけど、私は久保木さんのダンスがめちゃくちゃ好きだ。

それも、あとから思い出したところによると、どうやら20歳のときから久保木さんのダンスが好きだったらしい。

世間的には「ラッツ&スターでダンスが上手いのは田代さん」という認識らしいので、私のように「踊っている久保木さんに目が吸い寄せられる」という人は少数派なのかもしれない。

そこで、私が久保木さんのダンスのどこをそんなに好きなのか、整理してみることにした。

久保木さんのダンス考察

姿勢がいい

久保木さんは、とにかく姿勢がいい。

ほかの人たちはちょっと巻き肩気味だったりストレートネックっぽかったりするんだけど、久保木さんは完全に武道やってる人の立ち姿。
背筋が伸びて肩がストンと下がっているので、首が長く見える。身長のわりにスタイルよく見えるのは、あの姿勢の賜物だろう。

で、踊ってるときも絶対にその姿勢が崩れない。
普通だったら前のめりになるようなシーンでも、絶対に崩れない。

たとえば、“め組のひと”の「ビーチは突然パニック」の「パニック」のところ。両手を振り前に出しながらマイクに近づいてくるでしょ。
普通は多少なりとも前のめりになるもんだと思うけど、久保木さんはこんなときでも、いつもの姿勢を崩さない。
背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、腕を力強く前に振り出す。
その感じがね、かっこいいの(語彙力)。

体幹が強い

これも、武道とかスポーツをやっていた人にはありがち。
体が自然とバランスをとっている。

片足を前に振り出すと、体が後方へ倒れる。
右腕を振り出せば、体が左へ傾く。
腕や足だけでなく、全身を使って踊っているのだ。

上でも例に挙げた、“め組のひと”の「パニック」のところ。
腕を振り出すときも、ただ腕を出すのではなく体の中心を軸に肩から振り出す。

だから、久保木さんのダンスは動作の1つひとつにメリハリがあるし、振りも大きい。

重心がきちんと取れているのでフォームが崩れることもなく、立ち姿や決めポーズはいつも完璧。

それがまた、かっこいい(語彙力)。


そんな久保木さんのダンスは、田代さんの緩くて細やかなダンスとは対照的だ。
田代さんのダンスは、その緩さが玄人っぽくていいんだろうと思う。

でも、このご時世においても男の人の「強さ」とか「男らしさ」に魅力を感じる私としては、やっぱり久保木さんのダイナミックなダンスに目がいってしまうのだ。

……あ、佐藤さん?
佐藤さんは、多分ダンスは苦手分野なんじゃないかな。
よかった。
あの顔で、あの声で、踊りまで完璧だったら、みんな立つ瀬ないもんね。

アラフィフにして、恋しい人のフィギュアにときめく

私、収集癖ってそんなにある方じゃないと思うんだけど、知りたい欲が高まると、本を買いに走るところがある。

まず、古本屋で『ラッツ&スター/シャネルズ』を買った。

そして、写真集『ザ・シャネルズ』。

私は一応、モノを書く仕事をしているので、ウェブ上の情報がいかにいい加減なものが多いかはよく知っている。
その点、こういう本に書かれている情報には間違いがないからね。

あと『新宿ルイード物語―ぼくの青春と音楽』も、電子書籍で買って読んだ。


これらは収集癖というより、単純にラッツ&スターのこと、久保木さんのことを知りたいという欲求からだったんだけど、今度のコレはどう言ったらよいのか……。

フリマサイトで見つけて、衝動的に買ってしまった。

ラッツ&スターのソフビ人形。再集結したときにCM出演した、LION歯磨き粉クリスタのPOP人形。

ラッツ&スター
ラッツ&スター

情報収集のためにラッツ&スターのこと検索してたら、たまたまその数日前に出品されたばかりのフィギュアを見つけてしまい、運命感じちゃったんだよね。

メンバーそれぞれの特徴もとらえてるし、精度の高さにびっくり。
とくに感心したのは、久保木さんのフォルム。

久保木さん、背はメンバーのなかでいちばん低いけど、肩幅はわりと広い。
その、やや逆三角形の体型まできちんと再現されているではないか。「おっ?」と思って、思わずみんなの肩幅の寸法測り比べちゃったよ。

久保木博之(ラッツ&スター)
久保木博之(ラッツ&スター)

正直に打ち明けるけど、手に取って久保木さんの顔を見た瞬間ときめいてしまった(フィギュアなのに)。

それにしても、ほんとに写真だけ見て衝動買いしちゃったもんだから、開封してみて想像以上の大きさにギョッとした。
せいぜい、全長10センチくらいだと思ってたんだけど。

久保木博之(ラッツ&スター)
久保木博之(ラッツ&スター)

余裕で10センチ超え。

なんだか今夜は、久保木さんの夢を見られそうな気がする。

大瀧詠一さんと“FUN×4”

私が大瀧詠一さんの存在をハッキリと認識したのは、ドラマ『ラブジェネレーション』の主題歌である“幸せな結末”が大ヒットしたとき。

基本的にあまりテレビを見ない人間で、ドラマの類もほとんど見ないため、『ラブジェネレーション』のストーリーはよく知らないけれど、この主題歌は聴いた瞬間「あ、これ好き」と思った。
歌詞もメロディーも声も、全部がいい。

「これ、大瀧詠一の歌なんだ」

って思った記憶があるから、大瀧詠一さんの名前は知ってたんだと思う。

そりゃそうだよね、ラッツ&スターが再集結で“夢で逢えたら”を歌った次の年だもん。
そもそも、私が“Tシャツに口紅”や“星空のサーカス”を作曲した人の名前を知らなかったはずがないし。

ただ、大瀧詠一さんを歌手として認識したのは、そのときが最初だったと思う。


それから、さらに20年がたったある日のこと。
仕事中、移動のために当時の勤務先の社長の車に同乗していたところ、オーディオからシュールでポップな音楽が流れてきた。優しげなのに、どこか淡泊な男性歌手の声。

なにこれ、誰の歌?
聴いた瞬間すごく好きだと思ったけど、社長に「これ誰のCDですか?」と質問することもできず悶々としていると、

「一人で二人で三ツ矢サイダー」

という聞き覚えのあるフレーズが。
その日の休憩時間に、頭の片隅に残っていたそのフレーズをスマホで検索する。

「あれ、大瀧詠一だったんだ……」

歌手・大瀧詠一を認識した二度目の出来事。


でも、そのときはまだ知らなかったんだ。
ラッツ&スターと大瀧詠一さんの間に、デビュー前からの深い関係性があったこと。

私が10代の頃ってインターネットも普及してなかったし、ラッツ&スターの情報を得る手段なんて、ほとんどなかったもんね。
ほんとに何も知らなかったんだな、私。


私は、大瀧詠一さんの曲のなかでは“FUN×4”がいちばん好きなんだけど、この曲のコーラスのほんのワンフレーズだけ、ラッツ&スターが歌ってるんだよね。

それを知ったときの衝撃といったら、もう。

もともとのラッツ&スターや大瀧詠一さんのファンにとっては当たり前のことも、一世代あとで生まれた私には、1つひとつの事実が新鮮な驚きをもたらしてくれる。


ラッツ&スターに“FUN×4”歌ってほしいなぁ。
できれば、この曲はフロント4人全員のソロが欲しい。
ワンコーラスごとに、

1番 佐藤善雄
2番 久保木博之
3番 田代まさし
4番 鈴木雅之

の順でどうでしょうか。
久保木さんのソロパートに合わせて「散歩しない?」って、最大限に可愛い声で合いの手入れたい。

(追伸)月に吠える役目は、もちろん新保さんでお願いします。

masayuki suzuki taste of martini tour 2023 ~SOUL NAVIGATION~

今年の夏の一大イベント。
鈴木雅之さんのコンサートへ行ってきた。

ラッツ&スターめちゃくちゃ好きなのに、なぜかこれまで「鈴木さんのコンサートに行こう」と思ったことは一度もなかった。
デビューから活動休止までの流れをまったく知らない私にとって、ラッツ&スターと鈴木雅之というヴォーカリストはまったくの別モノだったのだ。

それは、田代さんや桑野さんにしても同じ。
バラエティで活躍していた彼らは、私にとってラッツ&スターの田代さんや桑野さんとはまったくの別モノ。ラッツ&スターの田代さんとか桑野さんとして見たことは、多分ない。

だから、私が今まで「鈴木さんのコンサートへ行こう」と思わなかったのも、ごく当たり前のことなのだ。

それなのに、今年はどういう風の吹き回しか「鈴木さんのコンサートに行ってみよう」という気になった。

ただ待ち続けることに疲れたのかもしれない。
ラッツ&スターの再集結への期待を断ち切るきっかけが、そろそろ必要になってきたのかもしれない。

だけど、心のどこかで、鈴木さんのコンサートへ行くことがラッツ&スターへの裏切りになるような気もしていた。
多分、メンバーの人たちは誰もそんなこと思わないだろうけど。


だから、「鈴木さんのコンサートへ行こう!そうしよう!」と大手を振って申し込む気にもなれず、結局、悩んで悩んで応募締め切りの数時間前に申し込んだ。

悩みはしたものの、当日になるとそれなりに胸が騒ぐ。
「この色、なんとなくラッツ&スターっぽくない?」と、私はターコイズグリーンのダボっとしたセットアップを着て、夫の前でファッションショー。完全にワクワクしている。

会場に入り、自分の席を探す。
いちばん後ろの、真ん中の席。

なんとなく落ち着かなくて、席に座ったままキョロキョロしていると、近くの席に座っていた女性が持っているグッズ(タオル)の文字色が、私の服と似たような色であることに気付く。
どうやら、ニューアルバム【SOUL NAVIGATION】のイメージカラーらしい。
意図せずして、今回のコンサートのイメージカラーを全身にまとってきてしまったようだ。


感想を書きだすと長くなるので端折るけど、とりあえず鈴木さんがステージ上に姿を現したときには、なんともいえない気持ちになった。

感動とか興奮とは違う、静かで穏やかな気持ち。

「ああ、本物の鈴木さんだ……」

という、感慨深い想い。
小学生の頃、ラッツ&スターのコンサートで初めて彼らを見たときも、こんな気持ちだったのかな。
いや、あのときはもっと興奮したような気がするな。

ツアー真っ只中だというのに、60代半ばを過ぎても変わらない、鈴木さんの声量と歌唱力。
笑いを交えたMCは、ラッツ&スターのステージを彷彿とさせる。
最近の歌はあまり聴き慣れないけど、鈴木さんの歌はどれもよかった。
悩んで悩んで申し込んだわりには、普通に楽しんでいたと思う。


ただ、どうしても悲しくなる瞬間がある。
“め組のひと”とか“夢で逢えたら”は、べつにいいんだ。
曲そのものが有名すぎて、いろんな人がカバーしてるし、誰が歌っても、鈴木さんがひとりで歌っても、そういう曲として楽しめる。

でも、“Miss You”はダメ。
だって、あれはどう聴いたってラッツ&スターの歌なんだもん。
イヤでも聞こえちゃうでしょ、あの人たちのコーラスが。頭の中で。


鈴木さんのコンサートは本当に楽しかったし、歌もよかったし、満足できるものだった。鈴木さんの穏やかな語り口調にも癒やされた。
なんなら、また行きたいなと思う。

だけど、これがもしラッツ&スターのコンサートだったら、私きっと「楽しい」よりもボロボロ泣いちゃうんだろうな。

鈴木さん、ごめんなさい。
私はやっぱり、ラッツ&スターじゃないとダメみたいです。
今度は、ラッツ&スターのリーダーとしての鈴木さんに会えるといいな。

ラッツ&スターは不死鳥か

“ランナウェイ”で97.5万枚を売り上げ、シャネルズとして華々しくデビュー。

不祥事による半年間の謹慎期間を経て、“街角トワイライト”をリリース。71.7万枚を売り上げての完全復活。

シャネルズからラッツ&スターに改名し、1枚目となるシングル“め組のひと”で62.2万枚の大ヒット。

そして、1996年の再集結。
通算18枚目となるシングルで大瀧詠一さん作詞・作曲の“夢で逢えたら”をカバーし、44万枚を売り上げ。
多くのアーティストがカバーしてきたというこの曲を、初のヒットに導く。


ラッツ&スター。


何度でも、不死鳥のように蘇ってくる。
ここぞというときに力を発揮するのが、ラッツ&スター。
ここまでの底力をもったグループは、ほかにないんじゃないだろうか。


ラッツ&スターは、まだ終わってない。
もう一度、メンバー全員が揃って息を吹き返してくれるって、私は信じてるからね。

スレンダー・ガールに私はなりたい

シャネルズやラッツ&スターの曲は、私にさまざまな影響を与えた。
とくに恋愛面で。

ラッツの曲は“め組のひと”や“憧れのスレンダー・ガール”をはじめ、女性を女神のように崇め称える歌詞のものが多い。

“彼氏になりたい”なんて、このストレートなタイトルだけでもキュンときちゃうし、「首ったけ」なんてセリフは今どき絶対使わないけど、やっぱりグッとくる。

個人的には“浮気なエンジェル”がいちばん好き。
子どものとき以外「可愛い」なんていわれたこと、私は一度もないし(多分)、久保木さんに「どうして可愛いの?そんなに」って言ってもらえるとか、うらやましくて吐きそうだよ。

そんな久保木さんの“恋の4回戦ボーイ”と“恋は命がけ”もいいよね。
久保木さんのことを好きになる前から、久保木さんのソロ曲は好きだったな。
久保木さんには、身を投げ打つような恋の歌がよく似合う。
きっと、そういう恋をしてきた人なんだろうな。うらやましすぎて、もう吐き気どころじゃないわ。


いろいろ思うことはあるけれど、小学生の頃からそんな「憧れの女性に求愛し続ける」曲ばかりを聴いていたおかげで、私の恋愛観はかなり偏っている。

好きなタイプをきかれて、

「好きになってくれた人がタイプ」

って答える人、いるでしょ?

あれと似て非なるもので、私は「私にめちゃくちゃ惚れてくれる人」に対し、グラッときてしまう。
“恋の4回戦ボーイ”みたいに直球で来られたら、もうダメ。


思えば、私は“憧れのスレンダー・ガール”のような女性を理想像として、この年まで生きてきた気がする。

スレンダー・ガールというにはさすがに年くいすぎちゃったけど、それでも自分で思い描くスレンダー・ガールに、少しくらいは近づけただろうか。


でも、ラッツ&スターのマドンナは、やっぱり薔薇の花みたいな棘のある女性なんだろうな。

私では、ちょっと役不足だな。一生かかっても“め組のひと”にはなれそうにない。

粗削りなコーラスが魅力

昔の映像とか見てると、ラッツ&スターのステージは本当にカッコよかったんだなと、しみじみ思う。

そりゃ、人気あるはずだよね。

そう考えると、一度たりともステージを見たことがなく、メンバーがどんな個性を持っているのかも、どんなパフォーマンスをしているのかも知らずに、ただ曲だけ聴いてあそこまでラッツ&スターに夢中になれた私って、ある意味すごくない?


実際、シャネルズ時代の曲もラッツ&スター以降の曲も「なぜ売れなかったんだろう」っていうくらい、よい曲がたくさんある。

もしかすると、ステージのカッコよさが仇になったのでは?

今さらながらにラッツ&スターのステージを見ながら、ふと思う。

もっと、ちゃんと曲を聴いてくれるファンがたくさんいたら、もう少し長く活動できたんじゃないかって。

でも、あのステージがあったからこそ、一時代を築くことができたのも確かなんだよね。
やっぱり、カッコいいもん。


小学生の頃からラッツの曲を聴き続けて、とことん惚れて。
35年の月日を経て、改めてラッツのステージに惚れ込んで。
そして、なぜか今になって、久保木さんに骨抜きにされて。

なんか、もうYouTubeには感謝しかない。
リスクを顧みず動画をあげ続けている人たちにも、感謝しかない。

ライブとか歌番組の映像は、今まで知らなかったラッツのパフォーマンスを見ることができるっていう意味ですごく貴重なんだけど、あの生音源もいいんだよね。
生音源だと、久保木さんの声が結構しっかり聞こえるから。


歌番組なんかで聴くラッツのコーラスは、決して完璧じゃない。
でも、当時はそのちょっと粗削りなところが、彼らの魅力だったんだよね。

それ考えると、再集結のときのラッツ&スターは完成度高かったなぁ。