私がラッツ&スターを好きになったのは母の影響だけど、母はシャネルズのレコードを全部揃えるほどの大ファンというわけでもなかったので、家にあったのはアルバム4枚と、シングルが数枚のみ。
シャネルズ1枚目のアルバムである『Mr.ブラック』は、その中には入っていなかった。
だから『Mr.ブラック』にしか入ってない曲は、私が自分でCDを買って初めて聴いた曲、ということになる。
いつ買ったのかは覚えてないけど、多分ラッツ&スター以降のCDを先に買って、あとからシャネルズ時代のアルバムがほかにもあることを知り、買い足したんじゃなかったかな。
だから、私にとって『Mr.ブラック』でしか聴けない曲は、わりと新鮮で記憶に新しい。
記憶には新しいけど、入ってる曲はすごく古くさいよね。カバー曲はもちろん、オリジナル曲も。オールディーズ臭がプンプンする。
もちろん、これ褒めてるからね。もう、すごく好きなんだ。
なかでも、“ダウンタウン・ボーイ”を初めて聴いたときの衝撃。
シャネルズを聴きはじめた小学生の頃から、もう何年も……おそらく10年は経っていたんじゃないかと思うけど、
「シャネルズは、こんなかっこいい歌も歌ってたのか」
って、本気で思ったから。
それくらい“ダウンタウン・ボーイ”は、私の心を強く揺り動かした。
私は本物の田舎者なので、そもそもダウンタウンといわれるような場所には馴染みがない。
私自身もごく普通の真面目な少女から、ごく普通の大人の女性になったクチなので、ラッツ&スターのメンバーが生きてきたような世界とは、多分あまり縁がない。
ただ、私の父は中卒の職人だ。
物心ついた頃から、作業服を着た下請けの職人さんやお弟子さんが何人も我が家を出入りしていた。
父の若い頃の写真を見ても、なんともいえないワルっぽさを漂わせている。
母はどちらかというとお嬢さん育ちだったようで、「あんな先の尖った靴はいて、一緒に歩くの恥ずかしかったんだから!」などと、よく言っていたけれど。
そして、私は一見普通のお嬢さんだが、どちらかというと父のDNAを色濃く受け継いでいるらしい。
“ダウンタウン・ボーイ”を聴いていると、その光景がリアルに脳裏に浮かんでくる。不思議と懐かしい気持ちになる。
ほかに似たような曲といえば、『Heart&Soul』に収録されている“夜明けのワークソング”があるな。
どれも肉体労働者の仕事終わりを歌った、泥臭くて、それでいてすごくキラキラした曲。
だけど、私は“ダウンタウン・ボーイ”の方が好きだな。
あのポップな曲調と、「両手の爪は黒く油まみれだけれど この手で幸せ掴んでみせる」っていう、切なくもポジティブな歌詞が好き。
曲はカラッと軽快なのに、なんとかして這い上がろうともがいている感じに心を打たれる。
あと、“ビッグ・シティ・キャット”。
母が持っていたシングルのレコード以外、私はシングル盤を持っていない。
だから、アルバムに収録されていないB面曲が結構あるということを、YouTubeで知った。
うん、かなり好き。この軽いノリ。
泥臭さのなかにある、強い生命力。
この感じが、きっとシャネルズの原点なんだろうな。