車での移動の最中、私はだいたい自分のスマホに入っているプレイリストをループ再生している。
ラッツ&スターの曲だけが入ったプレイリストAと、好きな曲を片っ端から保存したプレイリストBがあって、その日の気分でどちらかを再生する。
これは、つい数日前のこと。
高校生の息子を送迎中、後部座席に座っていた彼が私のプレイリストから流れてくる曲を聴きながら、ふと言った。
「その曲いいな。なんていう曲?」
思わず、
「え? これ? 今かかってる、この曲?」
と、聞き返す。
「うん」
「……浮気なエンジェル」
音楽アプリで検索する息子。
「誰の曲?」
「シャネルズ……ラッツ&スター。め組のひと歌ってたグループ」
「あ、あった」
シャネルズの“浮気なエンジェル”を、自分のプレイリストに追加する息子。
私に似たのか、息子は古い歌が結構好きで、1970年代から現代に至るまでの人気曲を幅広く網羅している。
ときどき「なんかいい曲ない?」と、母である私に情報提供を求めてくることもある。
私のすすめた曲が彼のプレイリストに入るのは、せいぜい3分の1くらいだろうか。私が「これは絶対好きだろう」と思った曲でも、「ちょっと違う」と言われたりするのだから、音楽の趣味というのはわからない。
シャネルズの曲は息子の好みじゃないと思っていたので、あえてこれまですすめなかった。
というか、基本的にその世代の人なら誰でも知ってるようなメジャーな曲しかすすめたことがない。
それがまさか、こちらからすすめてもいない“浮気なエンジェル”が息子のプレイリストに入ることになろうとは。
あげくに「昔の歌は歌詞がいいな」などと、自分の妹と同じことを言う。
私はこういう(いい意味で)軽薄な曲が大好きだけど、息子はどちらかというと渋好みだ。
今までも散々プレイリストで流しているし、その日初めて“浮気なエンジェル”を聴いたわけでもないだろう。
そもそも、“浮気なエンジェル”はプレイリストAとBの両方に入ってるのだから、これまで一度も息子の耳に入っていないわけがない。
なのに、なぜに今、突然?
タイミングなのか。
嗜好の変化か。
恋をしているから?
とりあえず、この“浮気なエンジェル”という私の一押し曲が、この日に突如として、なんらかの理由で息子の琴線に触れたのは間違いないようだ。
ものは試しと、
「浮気なエンジェルが気に入ったなら、これはどう?」
と、シャネルズの歌をもう一曲、流してみる。
ちょうど目的地に着いてしまったので、息子は車を下りる準備をしながら、
「なんていう曲?」
「憧れのスレンダーガール」
「ふうん」
そっけなく返事をしてバタバタ出て行ったけれど、こうして今、高校生の息子のプレイリストには、
“め組のひと”
“浮気なエンジェル”
“憧れのスレンダーガール”
と、ラッツ&スターの曲がなんと3曲も入っている。
“め組のひと”は、わかる。
“憧れのスレンダーガール”も、ぎりぎりわかる。
だけど“浮気なエンジェル”だけは、正直いまだに「?」という感じ。
いや、私はめっちゃ好きだけどね。息子が“浮気なエンジェル”を気に入ったっていうのは、いくらなんでも想定外すぎる。
今度は“渚のスーベニール”でも聴かせてみるか。いや、まずは4部作からいくべきかな。
それにしても、まさかラッツ&スターを親子三代にわたって聴くことになるとは思わなかったなぁ。
感慨深い。