渚のスーベニール/サマー・ホリデー

この二曲、どうしてもイメージがかぶってしまう。そんなことない? 私だけ?
『夏の夜の浜辺』っていうキーワードが一致するからかな。

とは言っても、“渚のスーベニール”には夏ってキーワードは別に出てこないんだけど。
でも、きっと夏だよね。勝手なイメージだけど、多分、夏の始まり。恋の始まり。
甘い歌詞も、高揚感のあるイントロも、心躍るような曲調も、すべてが始まったばかりの恋を連想させる。

それに対して、“サマー・ホリデー”は冒頭の田代さんのセリフからして、すでに失恋ソングだ。夏の間、気持ちを確かめ合い、夏の終わりとともに恋が終わる。そんな歌。

なんとなく、二曲合わせてひと夏の恋を連想させる。発売日も近かったみたいだしね。


この二曲でいうと、“渚のスーベニール”は“憧れのスレンダー・ガール”のカップリングだし、“サマー・ホリデー”はシングルA面。
なんとなく、“サマー・ホリデー”の方が地位が高い気がする。
“憧れのスレンダー・ガール”は、その世代の人にはそれなりに知られてるんじゃないかと思うけど、B面の“渚のスーベニール”になると知名度はガクンと下がる。多分、下がるんじゃないかな。当時を知らないから、あくまでも想像だけど。

でも、私は“渚のスーベニール”の方が好き。めちゃくちゃ好き。なんたって、ランキングでいえば“浮気なエンジェル”に次ぐBEST2だからね。

【シャネルズ/ラッツ&スター】の曲 BEST12

まず、インパクトのあるイントロで、最初からガッチリ掴まれる。あのちょっと粗削りな感じのファルセットは新保さんかな。勢いがあって力強いコーラスは全部、とりあえず新保さんだと思ってるんだけど。合ってる?
とにかく、あのイントロが始まった瞬間、心が揺さぶられてしまう。

そして、佐藤さんの「Oh baby」のあとの「Hey!」とか、田代さんのソロパート直前の「Kiss!Kiss!」とか、ちょっと陳腐なくらいにわかりやすい合いの手がいい。

あとは、鈴木さんの声がすごく優しい。間違いなく鈴木さんの声なんだけど、どこか違う。
いつもの鈴木さんの声というか歌い方って、網を投げて魚を囲い込む置網漁業みたいなイメージなんだよね。声を内側に巻き込んでいくみたいな。
だけど、“渚のスーベニール”を歌っているときは、どちらかというと放流スタイル。声が放射状に外へ広がっていく感じ。
“め組のひと”なんかもその傾向があるけど、あの歌い方がいちばん顕著なのは“雨の日のローラ”だな。

一方“サマー・ホリデー”はというと、ハイライトはなんといっても田代さんのセリフとソロパート。そして、桑野さんのトランペット。
少女のイメージが強かった“渚のスーベニール”から一転、大人の階段を上り始めたような雰囲気がある。

なんで、別れちゃったんだろ。ママに引き離されちゃったのかな。
と、“渚のスーベニール”の歌詞を思い返しながら、ちょっと思う。

「ママには内緒でひとりきり 渚まで駆けてこい」

なんか、いいよね。ひとりでこっそり家を出て、浜辺に向かって走ってゆく少女の姿が目に浮かぶ。

プレイリストに“浮気なエンジェル”

車での移動の最中、私はだいたい自分のスマホに入っているプレイリストをループ再生している。

ラッツ&スターの曲だけが入ったプレイリストAと、好きな曲を片っ端から保存したプレイリストBがあって、その日の気分でどちらかを再生する。


これは、つい数日前のこと。
高校生の息子を送迎中、後部座席に座っていた彼が私のプレイリストから流れてくる曲を聴きながら、ふと言った。

「その曲いいな。なんていう曲?」

思わず、

「え? これ? 今かかってる、この曲?」

と、聞き返す。

「うん」

「……浮気なエンジェル」

音楽アプリで検索する息子。

「誰の曲?」

「シャネルズ……ラッツ&スター。め組のひと歌ってたグループ」

「あ、あった」

シャネルズの“浮気なエンジェル”を、自分のプレイリストに追加する息子。

私に似たのか、息子は古い歌が結構好きで、1970年代から現代に至るまでの人気曲を幅広く網羅している。

ときどき「なんかいい曲ない?」と、母である私に情報提供を求めてくることもある。
私のすすめた曲が彼のプレイリストに入るのは、せいぜい3分の1くらいだろうか。私が「これは絶対好きだろう」と思った曲でも、「ちょっと違う」と言われたりするのだから、音楽の趣味というのはわからない。

シャネルズの曲は息子の好みじゃないと思っていたので、あえてこれまですすめなかった。
というか、基本的にその世代の人なら誰でも知ってるようなメジャーな曲しかすすめたことがない。

それがまさか、こちらからすすめてもいない“浮気なエンジェル”が息子のプレイリストに入ることになろうとは。
あげくに「昔の歌は歌詞がいいな」などと、自分の妹と同じことを言う。

私はこういう(いい意味で)軽薄な曲が大好きだけど、息子はどちらかというと渋好みだ。
今までも散々プレイリストで流しているし、その日初めて“浮気なエンジェル”を聴いたわけでもないだろう。
そもそも、“浮気なエンジェル”はプレイリストAとBの両方に入ってるのだから、これまで一度も息子の耳に入っていないわけがない。

なのに、なぜに今、突然?

タイミングなのか。
嗜好の変化か。
恋をしているから?

とりあえず、この“浮気なエンジェル”という私の一押し曲が、この日に突如として、なんらかの理由で息子の琴線に触れたのは間違いないようだ。

ものは試しと、

「浮気なエンジェルが気に入ったなら、これはどう?」

と、シャネルズの歌をもう一曲、流してみる。
ちょうど目的地に着いてしまったので、息子は車を下りる準備をしながら、

「なんていう曲?」

「憧れのスレンダーガール」

「ふうん」

そっけなく返事をしてバタバタ出て行ったけれど、こうして今、高校生の息子のプレイリストには、

“め組のひと”
“浮気なエンジェル”
“憧れのスレンダーガール”

と、ラッツ&スターの曲がなんと3曲も入っている。

“め組のひと”は、わかる。
“憧れのスレンダーガール”も、ぎりぎりわかる。
だけど“浮気なエンジェル”だけは、正直いまだに「?」という感じ。

いや、私はめっちゃ好きだけどね。息子が“浮気なエンジェル”を気に入ったっていうのは、いくらなんでも想定外すぎる。
今度は“渚のスーベニール”でも聴かせてみるか。いや、まずは4部作からいくべきかな。


それにしても、まさかラッツ&スターを親子三代にわたって聴くことになるとは思わなかったなぁ。

感慨深い。

スレンダー・ガールに私はなりたい

シャネルズやラッツ&スターの曲は、私にさまざまな影響を与えた。
とくに恋愛面で。

ラッツの曲は“め組のひと”や“憧れのスレンダー・ガール”をはじめ、女性を女神のように崇め称える歌詞のものが多い。

“彼氏になりたい”なんて、このストレートなタイトルだけでもキュンときちゃうし、「首ったけ」なんてセリフは今どき絶対使わないけど、やっぱりグッとくる。

個人的には“浮気なエンジェル”がいちばん好き。
子どものとき以外「可愛い」なんていわれたこと、私は一度もないし(多分)、久保木さんに「どうして可愛いの?そんなに」って言ってもらえるとか、うらやましくて吐きそうだよ。

そんな久保木さんの“恋の4回戦ボーイ”と“恋は命がけ”もいいよね。
久保木さんのことを好きになる前から、久保木さんのソロ曲は好きだったな。
久保木さんには、身を投げ打つような恋の歌がよく似合う。
きっと、そういう恋をしてきた人なんだろうな。うらやましすぎて、もう吐き気どころじゃないわ。


いろいろ思うことはあるけれど、小学生の頃からそんな「憧れの女性に求愛し続ける」曲ばかりを聴いていたおかげで、私の恋愛観はかなり偏っている。

好きなタイプをきかれて、

「好きになってくれた人がタイプ」

って答える人、いるでしょ?

あれと似て非なるもので、私は「私にめちゃくちゃ惚れてくれる人」に対し、グラッときてしまう。
“恋の4回戦ボーイ”みたいに直球で来られたら、もうダメ。


思えば、私は“憧れのスレンダー・ガール”のような女性を理想像として、この年まで生きてきた気がする。

スレンダー・ガールというにはさすがに年くいすぎちゃったけど、それでも自分で思い描くスレンダー・ガールに、少しくらいは近づけただろうか。


でも、ラッツ&スターのマドンナは、やっぱり薔薇の花みたいな棘のある女性なんだろうな。

私では、ちょっと役不足だな。一生かかっても“め組のひと”にはなれそうにない。

《シャネルズ4部作》ランナウェイ

“ランナウェイ”
“トゥナイト”
“街角トワイライト”
“ハリケーン”

これを、私は勝手に《シャネルズ4部作》と呼んでいる。

実をいうと、ランナウェイがデビュー曲だということは知っていたけれど、この4曲がデビューからの4作品だということは、最近まで知らなかった。

ただ、いろいろなアルバムに入っているから、この4曲はシャネルズにとって主要なポジションにある曲なんだろうな、とは思っていたけれど。

“憧れのスレンダー・ガール”と“涙のスウィート・チェリー”も定番だけど、上の4曲とはちょっと毛色が違うもんね。

だから、《シャネルズ4部作》。


私はシャネルズのデビューをリアルタイムで見ていたわけではないので、「ランナウェイを聴いて衝撃を受けた」というような経験がない。

なにせ、気付いたら聴いていた曲だし。

しいて言うなら、“ランナウェイ”を聴いたときに「あ、スタンド・バイ・ミーだ」と思ったのを覚えている。

いや、逆だな。
“ランナウェイ”を先に聴いていたはずだから、ベン・E・キングの“Stand By Me”を聴いて、そのあと改めて“ランナウェイ”を聴いたときに、

「スタンド・バイ・ミーと同じだ」

って、思ったんだろうな。

物心ついた頃からずっと聴いていた曲なだけに、“ランナウェイ”に対して特別な感想を持ったといえば、それくらい。

飽きるほど聴いてる曲だし、実際CD流してても「今日はランナウェイはいいや」って飛ばしちゃうこともあるし。


ただ、“ランナウェイ”は曲がシンプルなせいか、楽器隊の演奏がすっと頭に入ってくるから好き。

間奏のトランペットもいいけど、この曲はとくにギターとピアノがいい。この音色とリズムを聴いていると、日によってすごく心が癒される。

鈴木さんの声と、メンバーのコーラスと、楽器隊の演奏と。私の中では、それだけ揃ってようやく本物の“ランナウェイ”なんだよね。


あ、あと「ランナウェイ」の意味がわからなかったから、辞書で調べたことがあったな。

おっとりとしたロマンティックな曲という印象だったので、小学生の私は「逃げる」という言葉の意味になんとなく違和感を持ったんだけど、大人になった今なら、ちょっとわかる気がする。

恋をすると、あるんだよね。二人だけで、どこか遠くへ逃げたくなる瞬間が。

憧れのスレンダー・ガール/月下美人(ムーンライト・ハニー)

“憧れのスレンダー・ガール”は、好きじゃない人はまずいないと思う。

イントロで、いきなりハッとさせられる曲。

私にとって「いい女」のイメージっていうと、このスレンダーガールそのもので(一種の刷り込み現象か)、少女の頃からずっと憧れ続けて今に至る。


そして、この曲と対になるのが“月下美人(ムーンライト・ハニー)”。

この曲も多分、嫌いな人はいないと思うんだけどなぁ。ちゃんと聴いてもらえれば。

対になるっていうのは、あくまでも私個人の感じ方なんだけど、アルバム『14 CARATS』を買って、初めて“月下美人(ムーンライト・ハニー)”を聴いたとき。

思ったんだよね、「大人のスレンダーガールだ」って。


突き抜けるようなトランペットの音で始まる“憧れのスレンダーガール”に対して、“月下美人(ムーンライトハニー)”のトランペットはミュートで音を抑えてるのも象徴的。

いちいち想像力(妄想力)をかきたてられる。


ちなみに、これも私の妄想で『SING!SING!SING!』の中の“マドンナはお前だけ”はムーンライトハニーの、“雨の日のローラ”はスレンダーガールの「その後」を歌った曲だと、勝手に思っている。

さらに、スレンダーガールとムーンライトハニーは同一人物であるという仮説を立ててみる。

“憧れのスレンダーガール”には「夕陽にスリムなシルエット」という歌詞があって、“月下美人(ムーンライトハニー)”には「5時の影がお前のことを…」という歌詞がある。

つまり、夕方5時を境とした、昼と夜の2つの顔を持つ女の歌なのでは?

と、想像するわけだ。


すると、また別のものが見えてくる。

夜の男を捨て(“マドンナはお前だけ”)、昼の男の元へ戻る(“雨の日のローラ”)。そんな女の姿である。


本当に、ラッツ&スターの曲にはドラマがあるよね。

あくまでも、私の創作だけど。